「警備員の仕事はAIに奪われるのでは?」「10年後も警備員として働けるのか?」
このような不安を抱えている方は少なくありません。野村総合研究所の研究では「警備員」は代替可能性の高い職種として挙げられており、この不安には一定の根拠があります。
しかし結論から言うと、警備員の仕事は「一部AI化」されていますが、「完全消滅」はまだ先の話です。さらに、現在の警備業界は有効求人倍率が6〜12倍という深刻な人手不足状態にあり、むしろ人材が求められています。
この記事では、研究データに基づく代替可能性の分析、実際のAI・ロボット導入事例、そしてAI時代に警備員として生き残るための具体的な方法を解説します。
結論:警備員の仕事は「一部AI化」「完全消滅はまだ先」
まず結論を整理しておきましょう。
現時点での状況
- 野村総研の研究では「代替可能性が高い」とされているが、完全代替には至っていない
- 警備ロボットやAI監視システムの導入は進んでいるが、人間との「協働」が主流
- 警備業界は深刻な人手不足(有効求人倍率6〜12倍)で、むしろ人材需要は高い
- 市場規模は約3.7兆円で安定成長中
AI代替の現実
| 代替が進んでいる業務 | 人間が引き続き担当する業務 |
|---|---|
| 定時巡回 | 緊急時の臨機応変な判断 |
| モニター監視の一次チェック | 来訪者への接客対応 |
| 入退館管理(顔認証等) | クレーム・トラブル対応 |
| データ入力・報告書作成 | 不審者への声かけ・説得 |
つまり、「定型的・反復的な業務」はAI化が進む一方で、「判断力・コミュニケーション・緊急対応」が求められる業務は人間が担っています。
野村総研・オックスフォード大学の研究データ
「AI代替率49%」の根拠
2015年、野村総合研究所とオックスフォード大学が共同で発表した研究「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」は、大きな話題を呼びました。
この研究では、日本国内の601種類の職業について、AI・ロボットによる代替可能性を分析。警備員は「代替可能性が高い職種」の一つとして名前が挙がりました。
代替可能性が高いとされた職種の例
- 一般事務員
- 受付係
- 警備員
- 銀行窓口係
- スーパー店員
研究から10年後の検証(2025年時点)
この研究から約10年が経過した現在、実際にどうなっているでしょうか。
当初の予測と現実の比較
| 項目 | 2015年の予測 | 2025年の現実 |
|---|---|---|
| 警備員の需要 | 減少傾向 | 有効求人倍率6〜12倍の人手不足 |
| ロボット導入 | 広範囲で代替 | 一部施設で人間と協働 |
| 完全自動化 | 10〜20年で実現 | まだ実現していない |
10年後の現実から見えること
- 技術的には可能だが、社会実装に時間がかかる - ロボットは技術的には巡回可能だが、コストや法整備の問題で普及は限定的
- 人手不足により、むしろ人材需要が増加 - 少子高齢化で警備員のなり手が減少し、需要と供給のミスマッチが拡大
- AIは「代替」ではなく「協働」の方向へ - 完全に人を置き換えるのではなく、人間の業務を補助する形で導入
つまり、研究の予測は「技術的な可能性」としては正しかったものの、「社会への普及」は予想より遅れています。警備員の仕事がなくなる日はまだ先であり、むしろ今は人材が求められている状況です。
AIに代替されやすい警備業務
AIやロボットが得意とするのは、定型的・反復的・予測可能な業務です。以下の業務は、既にAI化が進んでいます。
定時巡回業務
決まったルート、決まった時間で行う巡回業務は、自律走行型ロボットが担当するケースが増えています。
ロボット巡回のメリット
- 24時間365日稼働可能
- 疲労による見落としがない
- 巡回データを自動で記録・分析
セコムの「cocobo」やALSOKの「Reborg-Z」など、大手警備会社が開発した巡回ロボットは既に商業施設やオフィスビルで稼働しています。
モニター監視の一次チェック
複数の監視カメラ映像を常時監視する業務は、AI映像解析システムへの置き換えが進んでいます。
AI映像解析の特徴
- 異常行動(暴力、窃盗など)を自動検知
- 人間が見落としがちな小さな変化も検出
- 複数カメラを同時に監視可能
ただし、AIはあくまで「検知」を行うだけで、検知後の対応は人間が判断します。
入退館管理
顔認証システムや自動ゲートの普及により、単純な入退館管理は自動化が進んでいます。
自動化の例
- 顔認証による本人確認
- ICカードによるゲート自動開閉
- 来訪者の自動受付システム
データ入力・報告業務
日報作成、巡回記録の入力といった事務作業も、効率化が進んでいます。
効率化の例
- タブレットでのワンタッチ報告
- 音声入力による記録
- ロボットが収集したデータの自動集計
AIに代替されにくい警備業務
一方で、以下のような業務は現時点で人間が担っており、当面は代替が難しいとされています。
緊急時の臨機応変な判断
火災発生時の避難誘導、急病人への対応、不審者への初動対応など、緊急時には状況に応じた瞬時の判断が求められます。
人間が優れている点
- 想定外の事態への柔軟な対応
- 複数の情報を統合した総合判断
- 状況に応じた優先順位の判断
例えば、火災発生時に「高齢者を優先して避難誘導する」「パニックになっている人を落ち着かせる」といった判断は、現在のAIでは困難です。
来訪者への接客対応
施設警備では、来訪者への案内、道案内、困っている人への声かけなど、対人コミュニケーションが求められます。
人間が優れている点
- 相手の表情や雰囲気から状況を読み取る
- 臨機応変な案内・説明
- 安心感を与えるコミュニケーション
特に高齢者や外国人観光客への対応では、マニュアル外の柔軟な対応が必要です。
クレーム・トラブル対応
施設利用者からのクレームや、利用者間のトラブルへの対応は、高度なコミュニケーション能力が求められます。
求められるスキル
- 傾聴力(相手の話をしっかり聞く)
- 共感力(相手の感情を理解する)
- 問題解決力(適切な解決策を提示する)
不審者への声かけ・説得
不審者に対して声をかけ、状況に応じて退去を促す業務は、人間の判断力と対人能力が不可欠です。
人間が優れている点
- 相手の態度から危険度を判断
- 状況に応じた声かけのトーン調整
- 必要に応じた警察への通報判断
身辺警護(ボディガード)
要人の身辺警護は、高度な状況判断と即座の行動が求められる最も代替困難な業務の一つです。
大手警備会社のAI・ロボット導入事例
実際に、大手警備会社はどのようにAI・ロボットを導入しているのでしょうか。最新の事例を紹介します。
セコム「cocobo」
セコムが開発した自律型巡回監視ロボット「cocobo」は、2023年から本格的な導入が始まりました。
cocoboの特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な機能 | 自律巡回、異常検知、映像記録 |
| 導入先 | 商業施設、オフィスビル、空港など |
| 運用形態 | 人間の警備員と協働 |
cocoboは、人間が対応しにくい夜間や広大なエリアの巡回を担当し、人間は緊急対応や来訪者対応に集中するという役割分担で運用されています。
ALSOK「Reborg-Z」
ALSOKの「Reborg-Z」は、警備・案内・広告の3つの機能を持つ多機能ロボットです。
Reborg-Zの特徴
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 主な機能 | 巡回警備、来訪者案内、デジタルサイネージ |
| 導入先 | 商業施設、オフィスビル、ホテル |
| 運用形態 | 人間の警備員を補助 |
Reborg-Zは、警備だけでなく施設案内も行えるため、施設の運営コスト削減にも貢献しています。
AI映像解析システム
セコム、ALSOKともに、AI映像解析システムを導入しています。
主な機能
- 不審行動の自動検知(徘徊、暴力行為など)
- 混雑状況のリアルタイム分析
- 異常発生時の自動アラート
これらのシステムは、人間の監視員が見落としがちな異常を検知し、警備品質の向上に貢献しています。
導入の現状と課題
ただし、これらのAI・ロボットの導入はまだ限定的です。
普及が進まない理由
- 導入コストの高さ - 1台数百万〜数千万円のロボットは、中小警備会社には導入困難
- 法整備の遅れ - ロボットによる警備業務の法的位置づけが不明確
- 技術的な限界 - 屋外や階段など、対応できない環境が多い
- 顧客の心理的抵抗 - 「ロボットだけでは不安」という顧客も多い
結果として、大手警備会社の一部施設での導入にとどまっており、業界全体への普及にはまだ時間がかかる見込みです。
警備業界の現状:人手不足と市場規模
AI・ロボット化の議論とは別に、警備業界の現状を確認しておきましょう。
深刻な人手不足
警備業界は、全産業の中でも特に深刻な人手不足に直面しています。
有効求人倍率の推移
| 時期 | 有効求人倍率(警備員) | 全職業平均 |
|---|---|---|
| 2020年 | 約7倍 | 約1.0倍 |
| 2022年 | 約9倍 | 約1.2倍 |
| 2024年 | 約6〜12倍 | 約1.3倍 |
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」
有効求人倍率6〜12倍とは、求職者1人に対して6〜12件の求人があるという状態です。これは、企業側からすると「採用したくても人が集まらない」状況を意味します。
人手不足の原因
1. 少子高齢化 若年層の労働人口減少により、警備員のなり手が減少しています。
2. 需要の増加
- 2025年の大阪・関西万博
- 増加するイベント・施設警備需要
- 企業のセキュリティ意識向上
3. 労働環境のイメージ 「夜勤がきつい」「給料が安い」といったネガティブなイメージにより、応募者が集まりにくい状況があります。
市場規模は安定成長
警備業界の市場規模は約3.7兆円(2023年度)で、安定した成長を続けています。
市場成長の要因
- 企業のセキュリティ投資増加
- イベント・施設警備需要の増加
- 機械警備(ホームセキュリティ等)の普及
つまり、警備サービスへの需要は増加しているものの、供給(人材)が追いついていない状態です。この状況は、求職者にとっては「売り手市場」であり、転職のチャンスとも言えます。
AI時代に生き残る5つの方法
ここからは、AI時代に警備員として生き残るための具体的な方法を解説します。
方法1:AIと「協働」できるITスキルを身につける
AIやロボットを「脅威」ではなく「道具」として活用できるスキルが重要になります。
身につけておきたいスキル
- タブレット・スマートフォンの基本操作
- 監視システムの操作・トラブル対応
- 報告アプリの活用
- ロボット・機械警備システムの運用知識
特別な専門知識は不要です。「新しい技術を受け入れ、使いこなす姿勢」を持つことが重要です。
詳しくは「AI時代に警備員に求められるスキル」で解説しています。
方法2:資格を取得してキャリアの選択肢を広げる
警備業務検定や管理者資格を取得することで、AIに代替されにくいポジションを確保できます。
おすすめの資格
| 資格 | 効果 |
|---|---|
| 施設警備業務検定2級 | 施設警備の専門性証明、配置義務のある現場で必須 |
| 交通誘導警備業務検定2級 | 交通誘導の専門性証明、高速道路などで必須 |
| 警備員指導教育責任者 | 管理職・教育担当への道が開ける |
資格を持つ警備員は法的に「配置が義務付けられた現場」で必要とされるため、需要が安定しています。
資格の詳細は「警備員の資格完全ガイド」を参照してください。
方法3:「人間にしかできない業務」のスキルを磨く
AIが苦手とする業務で高い能力を発揮できれば、代替リスクは低くなります。
重点的に磨くべきスキル
コミュニケーション能力
- 来訪者への丁寧な対応
- クレーム対応での傾聴・共感
- トラブル時の説得・調整
判断力・問題解決能力
- 緊急時の冷静な状況判断
- 複数の選択肢からの最適解選択
- 想定外の事態への柔軟な対応
観察力
- 不審者の早期発見
- 施設内の異常検知
- 来訪者の様子からの状況把握
方法4:専門性の高い分野に進む
特定の分野で専門性を高めることで、代替されにくいポジションを確保できます。
専門性を高められる分野
| 分野 | 特徴 |
|---|---|
| 身辺警護(ボディガード) | 高度な訓練が必要、AI代替が最も困難 |
| 機械警備システムの運用管理 | 技術知識が必要、AIと協働するポジション |
| 警備員の教育・研修担当 | 人材育成スキルが必要、管理職への道 |
| 大規模イベント警備の指揮 | 経験と判断力が必要、現場統括ポジション |
方法5:管理職・教育担当を目指す
現場作業からマネジメント・教育へキャリアを移行することで、AI代替のリスクを下げられます。
目指せるポジション
- 班長・隊長(現場の指揮監督)
- 営業所管理職(複数現場の統括)
- 教育担当(新人研修、資格取得指導)
- 本社スタッフ(営業、企画、人事)
これらのポジションは、人間の判断力やマネジメント能力が求められるため、AI代替は困難です。
キャリアパスの詳細は「警備員の昇進完全ガイド」で解説しています。
今から警備員を目指す人へのアドバイス
「AIに仕事を奪われるかもしれないのに、今から警備員になっても大丈夫?」という疑問にお答えします。
結論:今は警備員を始める好機
以下の理由から、今は警備員としてキャリアを始める好機と言えます。
1. 人手不足で転職しやすい 有効求人倍率6〜12倍の売り手市場です。未経験でも採用されやすく、年齢制限も緩やかです。
2. AI完全代替にはまだ時間がかかる 研究から10年経っても完全代替は実現していません。今後10〜20年は人間の警備員が必要とされる見込みです。
3. 経験を積みながらスキルアップできる 現場で経験を積みながら資格取得やスキルアップが可能です。AIと協働するスキルも実務の中で身につけられます。
警備会社選びのポイント
AI時代を見据えて、以下のポイントで警備会社を選びましょう。
| チェックポイント | 理由 |
|---|---|
| 資格取得支援制度がある | スキルアップでAI代替リスクを下げられる |
| 研修制度が充実している | 新しい技術への適応力が身につく |
| 大手または成長中の会社 | AI導入の最前線で経験を積める |
| キャリアパスが明確 | 管理職への道が開けている |
警備会社の選び方は「警備会社の選び方|大手と中小・ホワイト企業の見分け方」を参照してください。
入社後に意識すべきこと
1. 新しい技術を拒否しない 「ロボットが入ってきた」「システムが変わった」と文句を言うのではなく、積極的に学ぶ姿勢を持ちましょう。
2. 資格取得を計画的に進める 入社1〜2年目から資格取得を始め、5年後には複数の資格を持っている状態を目指しましょう。
3. 幅広い経験を積む 施設警備、イベント警備、交通誘導など、様々な業務を経験することで、対応力と判断力が向上します。
まとめ:不安よりも「行動」が大切
この記事のポイントを整理します。
現状の整理
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 野村総研の予測 | 警備員は「代替可能性が高い」職種 |
| 10年後の現実 | 一部AI化は進んだが、完全代替には至らず |
| 警備業界の状況 | 有効求人倍率6〜12倍の深刻な人手不足 |
| 市場規模 | 約3.7兆円で安定成長 |
AI時代に生き残る5つの方法
- AIと「協働」できるITスキルを身につける
- 資格を取得してキャリアの選択肢を広げる
- 「人間にしかできない業務」のスキルを磨く
- 専門性の高い分野に進む
- 管理職・教育担当を目指す
最も大切なこと
「警備員の仕事はなくなるのか」を心配し続けても、状況は変わりません。大切なのは、変化する環境の中で価値を発揮し続けるために「行動」することです。
資格取得、スキルアップ、新しい技術への適応、これらに一つずつ取り組むことで、AI時代でも活躍できる警備員になれます。
警備業界は今、人材を必要としています。この機会を活かして、あなた自身のキャリアを築いていきましょう。
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